聴き放題の音楽について

私の住んでいる田舎町には、小さいけれども大学と交響楽団があって、よくコンサートを催してくれる。9歳になる愛娘と一緒にいつもそれらを聴きに行くのだけれど、バッハやハイドンなどの王道な管弦楽はもちろんのこと、コンテンポラリーな作曲家の前衛的な作品も取り扱っていて、幅が広い。演奏も楽しみだけれど、指揮者の方が合間になさるトークがまた面白い。歴史の背景や音楽の聴きどころなどを織り込んでくれるので、視野が広がって楽しい。

その指揮者の方はバイオリニストでもあって、私の娘に毎週バイオリンを教えてくださっている。彼のソロコンサートでの演奏に感嘆した私が、先生のCDは売ってないんですか、と聞くと、いや、出すにはお金がかかりますからねと。元がとれない、ということらしい。そうだろうな、最近はいろんな音楽がオンラインで配信されていて無料で聴けるから。面と向かっては聞けなかったけど、それこそバイオリンを教えたりでもしなければ最近の音楽家は暮らしていけないのかもしれない。

バッハやハイドンの音楽には印税はかからないのだろうか。犯罪と同じで、著作権にも時効があるのかもしれない。そうだとしたら、クラシックの演奏家の源泉収入は一番多いはずなんだけど。自分で曲を作って歌える Chage & ASKA のようなアーティストもそうだ。レコード会社が上前をはねてしまう、ということか。つまり、レコード会社に頼らずに済ますには、聞き放題の音楽を配信で宣伝して、ライブコンサートで稼ぐしかないということなんだろう。 でも今は、配信されている音源をMP3にして勝手にプレイヤーに取り込んでしまうこともできるから、ライブに行ったりCDを買わなくても音楽は聴ける。昔を思えば、それはそれで贅沢な話だけど、無料の音楽なんて、共産主義の下の労働と一緒で、価値やクオリティが下がってくるものなんじゃないだろうか。もっと切実な問題として、それでは音楽家が音楽で生計を立てられなくなってしまう。

そこまでしてどうして音楽家になるのか、という疑問までわいてきた。私は自分の街の交響楽団のファンだから、彼らに寄付なんかをしてるけど、バッハやハイドンには、王様からの雇用やお金持ちのパトロンがあった。ASKAの言うところの、個人商店だったわけだ。でもそんな場合、楽団やバンドメンバーの医療保険とかは誰がもつんだろう。ファンが個人単位でする寄付金には限りもあるし、やはり、大きな企業かレコード会社にバックアップしてもらうのが一番のはずだけど、でもそこに何かしらの見返りがなければ契約は成り立たない。ミリオンレコードを出したにもかかわらず、所属会社に借金を返せず破産した歌手の名前を、私はいくつか耳にしたことがある。例えば Goo Goo Dolls とか。このバンドは、アメリカのバッファローという地方都市の出身で、メインメンバーの二人が両方とも作詞作曲するという、なんとなく C&A に似通ったところがあって、実は私は大ファンなのだ。今年で結成32周年らしいので、多分年齢も Chage や ASKA とそんなに変わらないと思う。彼らは Iris というミリオンナンバーが一番有名だろうけれど、Gutterflower というアルバムはどの曲も秀逸。彼らの最近のシングルは、どれも Youtube でオフィシャルな動画と一緒に聴けてしまう。これではだれも、よほどのファンでない限り、彼らのアルバムは買わないだろうと思うんだが。C&A と一緒で、多分彼らにもコアなファンがいるんだな、30年以上もやってると。

C&A や GGD のように複数の作曲家を抱えたバンドには、印税の配分でいろいろとデリケートな問題もあっただろう。GGD の公式ドラマーは過去に二度追い出されていて、そのどちらともがバンドに対して訴訟を起こしている。ASKAの"言わないのは言えないこと"とは、そういったことなのかもしれない。でも私としては、C&Aのベスト盤を名打つからには二人の作った曲のバランスがある程度取れているのが道理だと思う。まさかそれが嫌だからソロをやっているはずはないよね。もしそうだとしたら心が狭いよ。