チョコレート談義

春先にダウンタウンを車で通り抜けた時に見かけたチョコレート屋さんがずっと気になっていたのだけれど、昨日そこにとうとう行ってきた。よりどりみどり10個入りで、税込二千円程度だから、お世話になった少し目上の方への贈り物には本当にちょうど良い。ショーウインドウに並ぶチョコレートを眺めていると、心も踊る。

先日娘がオーケストラデビューをした。と言っても、住んでいる町の子供オーケストラで、ピッチカートのみの第四バイオリンという非常に地味なものだけど、親にとったら一世一代の晴れ舞台。いつものごとくコンサートの開始10分前にホールに着いてみると、会場は超満員で、立ち見のスペースさえままならない。しまった、出遅れたと、途方に暮れて客席の左手に歩いていくと、最前列で立ち上がって私に手を振る女性の姿があった。娘のバイオリンの先生の奥様だ。なんと、私に席をとっておいてくださったのだ。お嬢さん今日が初めてなんでしょう、ここにお座りなさい、と。彼女は第三子を夏に出産なさったばかりで、赤ちゃん連れにもかかわらず、私なんぞに気遣いくださるとは、まさしくマリア様のようなお方である。私は息子たちと一緒に後ろで見るから、とおっしゃったが、後で振り返ってみてわかったことには、小さな息子さんたちを座らせて、自分は赤ちゃんを抱いて立ち見をなさっていた。申し訳ないと思っても手遅れで、その日は演奏後の混雑にかまけて挨拶もそこそこに別れてしまった。チョコレートは、その方へのお詫びとお礼だ。話を聞いた私の娘が、かわいい小鳥の絵を描いて添えてくれた。喜んでいただけると良いのだが。

チョコレートが嫌い、という人もごくたまにいる。私の知り合いのドイツ人の男性がそうだ。ドイツと言えば、Ritter とか Merci とか、美味しいチョコレートには事欠かないお国柄だろうにそれが嫌いだなんて、実に不憫な人である。彼はレタスも嫌いと言っていた。じゃあサラダもうかつには出せない。仕方がないのでこの人には、何かの時にはワインを贈ることにしている。

でも、チョコレートを贈ると大抵の場合は上手くいく。どんな問題であってもアイスクリームとチョコレートで解決できる、というのが私の持論だ。昨今日本の国防を脅かしている北朝鮮の大統領にも、チョコレートを贈ってみたらよいのだ。武装回避の糸口になるやもしれぬ。万が一私の友人のようにチョコレートが嫌いな人であっても、絶対にこちらの誠意は伝わる。チョコレートってそんなものだ。甘さと苦さの混在に、人生の縮図すら感じられて、とことん奥が深い。

ちなみに、私が今まで食べた中で一番美味しかったチョコレートは、スイス製でもアメリカ製でもなくて、ウクライナの Roshen というメーカーが作っているクリスマスキャンデーである。ひとつひとつカラフルなセロハン紙で包んであって、レトロな感じで可愛らしい。また、私の娘は Roshen の出している Olenka という板ミルクチョコの包装紙に描いてあるバブーシュカ巻きの女の子に似ている。まあそれはさておき、Roshen を創設したポロシェンコという人物は、今ウクライナの大統領をやっている。国民からはチョコレート大王と呼ばれているそうだ。なんだかウィリー・ウォンカみたいで楽しいけど、彼は実業家出身の政治家だけあってかなり際どいこともやるようで、パナマ文書とよばれる金融スキャンダルに彼の名前があがっていた。あの文書にはジャッキー・チェンの名前もあったらしい。映画を作るにはお金がかかるし、仮にそのためにジャッキーが脱税とかしていてもそれは許されると思う私って、甘いですかね。