ラスベガスの銃乱射事件

先週末、ラスベガスのコンサート会場で無差別乱射事件があり、死傷者の数は500人以上に上ったという。容疑者自身も銃で自殺したとある。アメリカは銃の規制が甘くて、一般人でも殺傷力のある拳銃を合法的に購入できる。多分それは、アメリカの開拓時代にあった無法社会の名残である。あの時代、荒くれ者同士が身の保全を図るには銃が不可欠だったはずで、アメリカの銃規制が緩いのはその歴史を踏襲しているためだと思われる。私は子供の頃にワイルダーの大草原の小さな家の翻訳本を愛読していたが、開拓者であるインガルス家の食卓はお父さんが大草原で狩猟してきてくれる野生の小動物で成り立っていた。今でも、鹿狩りなどは野外スポーツとして一部のアメリカ人には人気がある。

私は若い頃、ルイジアナのバトンルージュという都市に10年以上住んでいた。アメリカでは、薬物取引絡みの殺傷事件が頻繁におこる。バトンルージュはその最たる場所で、夕方のローカルニュースはほとんど毎日それを報道していた。他人事だと思っていたら、お向かいに住んでいた聡明な女性の弟さんが銃で撃たれて亡くなった。喪服姿の彼女から、淡々と事情を聞いたときの驚愕は今でも忘れられない。彼女が話してくれたところによると、一家の中で大学に行ったのは彼女だけだったという。薬物はお金になるから、若者は簡単に巻き込まれてしまうらしい。そこには人種差別の影も見え隠れする。ルイジアナという場所はジャズやブルースを産んだだけあって、人情に富んだ人々の住む陽気な土地柄なのに、その裏側にはこういった未だ未解決の問題があるわけで、本当に息の詰まるような話である。

拳銃は、いとも簡単に殺傷可能な道具であるから恐ろしい。20年近く前にマトリックスというハリウッド映画がヒットした時に私が抱いたのは、あんな暴力的な画像を見せて人々が勘違いを起こしてしまわないかという危惧だった。ラスベガスの事件を契機にして、アメリカ議会が銃規制を強化してくれたらよいと思うが、上院下院共に共和党主導の現在、それは実現しそうにない。伝統的に、共和党は減税と不干渉主義、民主党は福祉とリベラルをモットーとする。トランプ現大統領は共和党から立候補して当選した。大草原の小さな家の物語の中で、インガルス一家は共和党を支持していた。それは、彼らが最初に丸一年かけてカンザスで開墾した土地から政府に追い出されたから。当時のアメリカでは、西部で開墾した土地は自分のものにできたのだが、誤ってインディアン居留地の中に家を建ててしまったのだ。境界線が引いてあったわけでもないので、間違ったのも仕方がない。インガルス一家はその後も西へ西へと移動を続け、最後はノースダコタに定住する。ワイルダーは次女だが、彼女は結婚後旦那さんと一緒に少し南のミズーリに引っ越してそこに二人で農場を開いた。共和党のアメリカ人には、彼らのように独立独歩な人が多い。

いずれにしても、これからのアメリカ人が安全な生活を送るには、銃や火薬の売り買いをもっと厳しく規制したほうがいい。さもないと、このような事件が再び起こることはまず免れない。