如月といえば

三年前の今頃、私は台湾大学で研究をさせてもらっていたのだが、ある日校内で買ったお弁当の蓋に次のようなポエムが印刷されていた。


聞道梅花坼曉風

雪堆遍滿四山中

何方可化身千億

一樹梅花一放翁

 

陸遊

 

一般に、七言絶句と呼ばれる形態の漢詩だ。Google で検索して出てきた翻訳は、


梅の花の香りが風の間を貫く。

雪は四方の山々を覆い尽くしている。

ああなんとかして、この体を何千億にも分けられないものか。

そうしたら一本一本の樹の前にこの老いた自分を置いてその花を賞賛できるのに。

 

陸遊 (りくゆ) 、という人は南宋 (1127-1279、唐と元の間で後期の宋) の代表的な詩人。これを春先に使い捨ての紙容器に載せてしまうあたりが、台湾人って粋だと思う。漢詩は、日本語読みしてしまうと音のリズムが失われてしまって魅力が半減する。中国語の話せる方に読んでもらうとその抑揚の美しさが分かる。

 

昨年、台湾大学の学長選挙が台湾政府の介入にあったそうで大変だったらしい。大学が最初に選出した学長が、中国にある別の大学でも教鞭を取っていたことが台湾政府の反感を買ったのだという。台湾独立を目指し中国の影響をことごとく排斥しようという政府の思惑も分からないでもないが、そのせいで、台湾大学は学長不在が延々と続き運営に支障が生じてしまった。学生や教職員は奨学金や給料が半年間もらえなかったということだ。台湾大学の学生にはお金持ちの子女が多いので、まあ大丈夫だったろうとは思うが、それにしても、大学の自治は尊重されなければいけなかった。私が四の五の言ったって何も始まらないのだけれど。